異世界トリップについての覚え書き

「ここが変だよ異世界トリップ」

おおむね真っ当なことが書いてある。ただちょっと踏み込みが甘いというか、考察が足りてないところが散見される。まあボリュームからいっても掘り下げた内容にならないのはさもありなんという感じなんだけど、いろいろ思うところがあるので書く。

なぜ、異世界トリップするの?

異世界トリップする妥当性がないテンプレートの話が多いけどそれでいいの?という趣旨だと思うが、タイトルはそのようには書かれていないので腑に落ちない。

ファンタジーの話を書くならファンタジーの住人が主人公でよかろう、という話だと思うが、異世界トリップはある種の旅行記なので、異世界にとっての異邦人であるほうが妥当性が高い。なぜ異世界トリップなのかに対する回答がファンタジーの旅行記の一種だからであるなら、主人公は現代日本人のほうが都合がよい。主人公については後述する。

単にタイトルと本文に齟齬があるだけで、テンプレで流さずにちゃんと異世界トリップする妥当性を描いてくれ、という話ならわかる。しかしそれは異世界トリップ全般に対する苦情にすべきでない。目的語がでかすぎる。

主人公はなぜ日本人なの?

「別にアメリカ人やパキスタン人が主人公で異世界トリップしてもいいのでは?」ということについてまず NO。単純に地球人全体から乱択するなら、最も妥当な主人公は世界最大の民族集団であるところの漢民族ということになる。地球人口の2割が漢民族だから、5人異世界トリップしたら1人は漢民族である。ざっくりいうと日本人は60人中1人くらいで、パキスタン人だと30人中1人、アメリカ人だと20人中1人くらいの割合で、まあこうなってくると、「日本人が選ばれても別に変じゃないよね?」くらいには高い割合だと思う。日本、人口世界10位の国だからね。だから日本人以外のほうが自然みたいな話は仮に乱択だったとしてもそんなに妥当性がない。

で、そもそもの話として主人公は物語のために恣意的に選択されるので乱択にならない。仮に乱択だったとしても、たまたま選ばれちゃった人を主人公と仮定するだけの話なので、実質の話だけすると、主人公の出身地は物語にとって必然的に決定される。

異世界トリップは前述の通り基本的にはある種の旅行記である。旅行記の対象読者が日本人である以上、日本と違う別の文化を紹介するのが自然だし、そうであるなら日本人がよその文化に触れてそれを紹介するのが合理的であろう。ここでアメリカ人が主人公であるほうが非合理的である。一方アメリカ人が日本を旅行するのは日本人向け足りえる。たとえば異世界食堂はこの類型である。日本とよその文化を比較すればいいので、舞台が日本なら日本にとっての異邦人の視点になるし、舞台が異世界なら異世界のとっての異邦人の視点になる。

なので「読者が日本人だからではないか?」って書いてあるのはそのとおりだし、「異世界と価値が違うことを前面に出して主人公を通して世界設定を説明する」のもそのとおりではある。 しかし前者に関しては、日本人はふつうにハリウッド映画は見るわけで、アメリカ人が主人公の話はふつうに受け入れられている。そも同じ日本人が主人公といっても、日本の中でも価値観の地域差は大きい。 後者に関しては現代日本の知識を有することだけが条件なので、日本マニアのアメリカ人でもいいし、未来に作られたアンドロイドが主人公でも問題ないだろう。価値観の違いはむしろ物語を演出するギミックとして機能しうる。 けれどもそうなるともはやかえって不自然である。日本と異世界の文化と比較するのに一番合理的なのは日本人なんだから。

料理編

計量カップやスプーンもなく目分量で正しい量をはかれるのはそんなに変なことではないような気がする。ケーキなんかはきっちり分量をはかる必要があるけれども、料理に関してならわりと雑でもいい。たとえばレシピを見ても「塩少々」とか書いてある。「少々」ってなんやねんと思うが、「少々」は「少々」である。味は気温や湿度、体調によって感じ方が変わる。食べ物の温度でも変わる。もちろん食材の状態によっても変わる。なのでこればっかりは適当に加減を見ながらやるしかない。料理は基本慣れだ。向き不向きはあれど、ある程度まではふつうに自炊したら身につく。「ふだん食う飯をいちいち毎回レシピ見ながら作るか?」って話。

ほか

あとは個々の作品の考察が足りてないという話を寄せ集めた感じ。異世界トリップというジャンルが悪いという類の話ではなかろうと思う。前述のとおり、異世界トリップ全般に対する苦情にすべきでない。目的語がでかすぎる。

もったいないなーと思う

この人はこれだけの知識があるんだから、ちゃんと考察を掘り下げて書いたらよかったと思う。別に何かの作品で見たよくない事例をやり玉にあげずとも、異世界トリップで安易に陥りやすい誤りについて解説できるだろうし。まあそれを言ってしまうとこの記事もそうなので、この記事で終わらないように今作品書いてます。