「JKハルは異世界で娼婦になった」読みました

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書籍はまだ読んでないんだけど電子版を買う予定ではいます。


結論から言うと、巷で言われているほどにひどい作品ではないし、面白いか面白くないかでいえば面白い部類の作品だとは思いますが、読み手が予想する着地点と実際に提示された着地点の齟齬が非常に大きな作品だと思うので、そこが受け入れられるかどうかによって作品に対する評価は大きく変わると思います。
ぼく個人はこの結末を諸手を挙げて受け入れることはできないと感じています。


この作品を一言であらわすなら「アンチなろうヒーローもの」でありかつ「アンチなろうヒロインもの」です。「アンチなろうヒーローもの」は別に目新しい作品ではない*1ですが、今作では「アンチなろうヒロインもの」を補強する題材になっています。つまり芯は「アンチなろうヒロインもの」であるわけです。
今作はなろうの「都合のいいヒロインたち」ではないヒロインを描いた作品だといえるでしょう。その点ではよかったと思います。

ただ、終盤の展開は、正直にいって序盤の展開との食い合いがよくなかったと感じています。

スキルがなくて体を売るしかないかつてカースト上位だったヒロインと、スキルによって調子に乗ってるカースト下位の陰キャという対称性を見せておいて、それを補強する話を展開しておきながら、実はヒロインの女の部分が最強のスキルだったというオチにするのは、その対称性を破壊するだけで、結局ヒロインも陰キャも大差ない、なろうのどうしようもない主人公の範疇を出ないですよ、という話になってしまう。ひょっとするとそれが書きたかったのかもしれないんだけど、だとすればそれ以前の展開の書き方はその結末に向けて読者を導くべきだしそうはなっていない。

また、別にこういっちゃなんですけど、スキルなんかなくても、終盤の無双シーンなんかなくても、充分に彼女の怒りを描くシーンは表現できたんじゃないですかとも思っています。そのほうがアンチなろうヒロインとしての強度は増すと思うし、単にどんでん返ししたかっただけなんじゃないかとうがってしまう。
また逆に、あのようにどんでん返しをせずとも、最初からスキルの存在をほのめかす、あるいは明示しても、スキルに頼らずに生きていくことを描きつつ、結局はスキルによって問題を解決するようにしても、それはそれで無常観があり、充分に物語は演出できたんじゃないですか。

もしどんでん返しがしたかったのなら、もっと伏線を張るべきだと思いますが、それはたぶん題材との相性はよくないと思います。
痛快ではあるけど、痛快に描いてしまったら、彼や彼女のどうしようもなさが茶化されてしまう気がする。というか実際ぼくは茶化されているように感じた。それでよかったんですかね。
どうしようもないなろう主人公はやっぱりどうしようもないですよ、ということを書くのに、スキルで無双する痛快さを肯定的に書いてしまってるから、どうしてもちぐはぐに感じてしまう。ひょっとするとなろう主人公はどうしようもないということを書きたかったわけではないのかもしれないんだけど。だとすればこの作品は何を書きたかったんだろう。

Web小説は形式としては連載で、書いているうちに軸がブレてしまう作品も多く、この展開べつにいらなかったよねとかそういうものもあるんですが、たいていは大長編だったり超長編だったり大河だったりで、幕間の話として納得できたりもする。そうするとこれくらいの尺の話、つまり短編から長編のスケールって、いかに推敲して完成度上げるかってところだとも思うんですよね。ぼくは本作はけっして完成度の高い作品ではないと思うんですけど、べつにそれは設定だったりなんだりというところではなく、単純に着地点とその提示がミスマッチだという点でそう感じています。
文自体がつまらなかったりするわけではないし、題材もよかったと思うんですけど、読み終わってみると「もっとこうしたらよかったのにね」というのがもったいないというのとも違う、単に納得のいかなさみたいな感じとして残ってしまい、もやっとしています。


シャワーに関しては本当にどうでもいいところで、シャワーの有無によらないところで現代日本と異世界との差は書いていると思うし、この作品にとってはそれで不足とは感じていないのですが、まあ人によるかもしれないですね。正直なところシャワーが気になる人はシャワーよりもっと前の段階で違和感を覚えたんじゃないですか。単にトリガーがシャワーだっただけ、ということのような気がするし、それは自転車置き場の屋根をどうするかっていう話と大差ないように思います。
錬金術あるからシャワーくらいあるよ、っていうことで、それについては別に説明しないし本題じゃないですよ、という意味では、この作品の設定考証としてあれで過不足ないでしょう。

より話の題材に近いところの議論としては、シャワーがあることによって簡単に性の痕跡を洗い流せてしまうのことの是非だと思うんですけど、そういう議論をしてる人ってどれくらいいるんですかね。ちゃんと議論追っかけてないのでしらないんですけど。
ぼくはシャワーで簡単に洗い流せないほうが好き派*2なんですけど、この作品はシャワーで簡単に洗い流せてしまえることでちょっとニヒリスティックな雰囲気出てると思うので、作品には合ってるし、まあよしあしあって一概には言えないですね。

*1:たとえば盾の勇者の成り上がりがそうです

*2:もっと性の痕跡を生々しく書いてほしい派です