レベルデザイン考

発端のリンクをはっておくけど、この記事を書いた時点では、このまとめを読んでもレベルデザインとはなにかに対する明確な答えはない。

togetter.com

そしてこの記事もぼくなりの見解であって、現職のレベルデザイナーの見解にそぐうかどうかはわからない。

まとめを読むとわかると思うけど、たぶん「難易度」の話が解決しないと先に進めないので、レベルデザインと難易度の話をする。

レベルデザインに難易度の設計は含まれるか

「含まれる」と考えている人は、だいたいこんな考え方だろうと思う。

  • 単に難しくしたいとか簡単にしたいとかっていうつもりで使っているわけではない
  • 体験の一部として手応えのある要素を用意したり、慣れを実感させたり爽快感を味わわせるためにハードルを下げたりっていうことをレベルデザインの要素だと考えており、これを指して「難易度の設計」と呼んでいる
  • 難易度の調整はレベルデザインの先にある作業だということは理解している

レベルデザインに調整が含まれないのはわかっているけど、個々の要素について難しさを意識してステージの配置を行うんじゃないですか」っていうことを、この人たちは言っているのだけど、現場のレベルデザイナーからは「いや難易度調整はレベルデザインに含まれないです」という回答がかえってくるばかりで、答えがない状態のままだった。

違う、調整じゃなくて、難易度設計の話をしているんだ。

でも、そもそも難易度設計っていう言葉がよくないんじゃないかと気付いた。

レベルデザインに難易度の設計は含まれない

レベルデザインは単純に『難しいステージ』『簡単なステージ』を作る行為ではない」ということを、現職のレベルデザイナーの方々が伝えようとしているのではないかと思う。
そう考えてみると、確かに一貫してずっとそう言っている。

レベルデザインは体験ありきであり、難易度はその結果として現れる。

次のようなアウトラインに沿って考えてみる。

ゲームデザイナーが考えたゲームのメカニクスがあり、そのメカニクスを体験するフィールドとしてレベルがある。メカニクスの理解を促すために、プレイヤーが遊びやすい環境からはじめ、メカニクスが有効に使える場面、逆に有効でない場面を体験させる。メカニクスに対する理解ができた頃に、手応えのある障害を用意する――このようにしてレベルデザイナーがレベルを作成し、その後、レベルデザイナーの要請に沿って、難易度が調整される。

実際に遊んでみると、先に出したレベルよりもその後のレベルのほうからプレイしたほうがメカニクスを理解しやすい、ということがあったとする。レベルの順序を入れ替えることもあるのかもしれない。レベルデザインを行うより先に難易度は決まっておらず、レベルデザインの後で適切な難易度が見えてくる――のかもしれない。

ぼくは開発現場でゲームを作っているわけではなく、野良で個人製作のゲームを作っているだけだから、ゲームデザインからレベルデザイン、難易度調整まで自分で一人でやることになる。
そうすると境界線なんてあってなきがごとしだから、最初にふわっと難易度曲線のことを考えて、序盤だから遊びやすく、終盤だから手応えを……みたいなことを考える。個人製作者の中にはそう考えて作る人もそれなりにいるんじゃないかと思う。

「レベルデザイナーは難易度を FIX しない」「レベルデザインは難易度を決定する作業ではない」ということだとすれば、そもそも「難易度の設計」という言葉がまずくて、そのような作業は存在しない。

これは現場を知らないので想像なんだけど、たとえばゲームデザイナーから「ここは序盤でプレイヤーに遊び方を理解させるレベルにしたいです」とか「ここは中盤でプレイヤーが遊び慣れてきているのでそれを実感できる手応えのあるレベル or 爽快さを味わえるようなレベルにしたいです」みたいな指示があって、それに沿ってレベルを作成する。
この要件からはふわっと難易度のことが頭をよぎるんだけど、難易度は本質ではなくて「遊び方を理解させる」「慣れを実感できる手応えを」「爽快感を味わわせる」みたいなことが根っこにあり、その結果として難しさが表出してくるのであり、最初から難しくしようとか簡単にしようって考えて作ってはいけない。
もっとも、レベルデザインに難易度設計が含まれると考えている人、みんながみんな、単に難しくしたり簡単にしたりしようって言っているわけではないだろう。
彼らにとっての難易度設計っていうのは、たとえば「遊び方を理解させるためにどうするか。ギミックの配置の複雑性をエスカレーションして、徐々にプレイヤーが複雑なギミックに対応できるようにして……」ということであり、ここでいうギミックの複雑性のコントロールを難易度設計と呼んでいる人も、少なからずいるように思う。そういう人たちは、敵の配置の密度なり、通路や部屋の戦いやすさなりっていうのも、ひっくるめて難易度設計と呼んでいるように思う。
中身を分解してみれば、それはちゃんとレベルデザイナーの作業になってると思うのだけど。

繰り返しになるけれど、単純に難しくしようとか簡単にしようって思っているわけではない、と思う。ただ、どうやら現職のレベルデザイナーの方からは、難易度設計という言葉は単に難しくしたり簡単にしたりしようっていうふうに見えているかもしれない。実際にそう考えている人もいると思うので、そう見えても仕方ないかもしれない。

通じていない言葉よりも、通じていると思っている言葉の認識の齟齬をなくすほうがむずかしい

今回だと難易度というおおむね意味が通じているだろうという言葉のほうが、認識を合わせるのが大変だった。
現場の人のいう「難しいとか簡単とかいうことはゲームの本質ではない」というのは理解できるし、一方で「プレイヤーの習熟にあわせて障害の困難さをスケールさせる行為は、難易度をコントロールしていると言えるのでは?」という意見も、やはりよくわかるから、一見して「レベルデザインに難易度に関わる作業は含まれない」という言葉だけでは、ちょっとピンとこない。

難易度設計

それはそれとして、難易度の設計はレベルデザインとは別の工程としてある。
レベルデザイナーは敵の強さを決定しないし、敵の攻撃方法を設計したりはしない。強い敵や弱い敵について、あるいは強い攻撃方法や弱い攻撃方法を設計するのはレベルデザイナーの仕事ではない。
現場の感覚では、難易度設計という言葉を使われると、こういう仕事のことを考える。
レベル内の障害の困難さをコントロールすることは難易度設計とは呼ばない。

そしてレベル内の障害の困難さは難しくしたり簡単にしたりするためにコントロールするわけではないから、レベルデザインが難しさにかかわる作業だというのは誤りである。

だいたいこういう理解に落ち着いた。

余談

ところで、英語圏での level design について難易度にかかわる作業が含まれないという話の根拠は特に見当たらなかったし、英語の記事で level design について難易度を絡めた話をしている記事はちらほら見かけた。たぶん英語圏においても、スタジオによってまちまちなんじゃないかと思う。

敵の出現頻度や AI の思考を動的にコントロールして難しさを変化させる仕組みとかもあるし、難易度と個々のレベルとは切り離して、レベルデザインにおいては遊び方の設計をするにとどめて、その遊び方が難しかったり簡単だったりっていうのは、その先でやることだよ、レベルデザインでは考えないことだよ、っていうのは、まあわかる。
一方で、地形それ自体の構成が直接的に難しさにかかわるようなケースは実際にあってそのような記事*1 を書いている人もいるし、プロシージャルにコンテンツや難易度を決定してレベルデザインする手法っていう論文*2 もある。

個人の見解です

「どうして難しくしたり簡単にしたりしたいのかを考えるのがレベルデザインです」っていう話からは、やっぱり難しさのことを考えるんじゃないのかな……って気はする。考えた結果として「いや別にここ難しい必要ないですね」っていう答えが出るにせよ。むしろゲームのメカニクスを理解させるのに不必要に難しかったりしないか?ということは考えないといけないんじゃないのかなあ。別に難しくしたいわけではないんです。難しいのが面白いとも思ってないんです。

とはいえ難しさは本質ではないというのは本当によくわかるしそのとおりだと思うので、目先のわかりやすい難易度よりもっと根底にあることを考えた上でのレベルデザインっていう言葉だっていうことは、ちゃんと理解しておきたい。*3

*1:参考: http://simonlundlarsen.com/scaling-geometry-difficulty-in-level-design/

*2:参考: https://ieeexplore.ieee.org/document/6633640/ ※読んではいない

*3:でも今回の話、たとえばニカイドウ氏はそのへんのことはよくわかってらっしゃる方だと思うんだけど、なんか不必要に攻撃されてたような気がしてつらい