恋や愛を超えていく

ユーリ!on ICE は男男関係の作品なんだけど、ブロマンスよりは明らかにBL寄りなんだけど個人的にはあんまりBLっぽくないなと思っていて、それって二人をつないでいるものがフィギュアスケートだからなんだけど、じゃあフィギュアスケートによって結ばれていると何がどうBLっぽくないのか?

アスリートにとっての幸福はパートナーと共にあることではなくて、アスリートの頂点にいることなんだけど、それはいつも孤独なんだよね。だからアスリートと恋愛ものっていうのはめちゃくちゃ食い合わせが悪い。銀盤カレイドスコープでは、1巻2巻こそ幽霊の少年とのロマンスがあったものの、自分と並び立つことができるレベルの男子フィギュアスケート選手が身近にはいないし、そもそも男子と女子とでは同じ地平を目指すことができない、というところもあって、恋愛要素を排してアスリートとしての頂点を目指す物語にシフトしていく。

今作でタズサとダブルヒロインになっているリア・ジュイティエフはタズサが唯一自身と同じ地平に立つことができる存在として認めていたが、タズサがリアを超えて頂点に立つことを目指したために決別する。五輪ではタズサはリアに大敗し、リアはタズサを見限って男子フィギュアスケートへの転向を表明……するも、同年の世界選手権でタズサがリアを破って優勝。こうしてふたりは互いに唯一無二の好敵手になり……というところで結末を迎えている。男子とは無理でも同じ女子となら同じ地平を目指すことができるけど、どうあがいたってたった一人の頂点の座を奪い合う関係にしかなれない、けれども、その奪い合う関係は確かに二人だけの世界でもある。もちろんこれはこれで百合だとは思うんだけど、ユーリ!はそこをもうちょっと踏み込んでいて、かなり大胆な作品だと思ったんだよね。

ユーリ! on ICE では勇利とヴィクトルは最終的に互いに競い合う相手でもあり、師弟でもある、という関係になる。これはとても欲張りな関係だよね。銀盤カレイドスコープは前述のとおり互いにライバルになったところで終わるけれども、別にライバル同士が師弟になってはいけないという決まりはないし、ライバル以外の他の関係とライバル関係を両立しちゃいけないことはない。両立しようとすると軸がブレて純度が下がる、というのはある意味では正しいけれども、両立を目指すくらいの欲張りさを見せるくらいの感情の起伏を描くというのもまた正しく、ユーリ!ではそうなっている。

逆に恋愛ものの視点からいうと、恋や愛はアスリートとしての幸福を上書きしてしまうので、アスリートとして成功しなくても、わたしはあなたを認めるよ、という結末を迎えることができてしまう。何者でもなくとも、わたしはあなたを受け入れる……でもそういう結末のほうがむしろ「ごくありふれた得難い幸せ」だったりはする。

どっちもってずるくない? でもずるいんだけど、恋や愛を超えてアスリートとしての頂点を目指すと、単に恋や愛ではない、べつの「絆み」が生まれてくる。


ちょっと話が変わって、きららフォワードで球詠という野球漫画が連載されている。きららなので女の子と女の子の関係性を書いた作品が多いんだけど、球詠も例にもれず、女子野球ということで登場人物みんな女の子、という作品になっている。

この作品は百合漫画ですか? 百合漫画です。ただ、なんか百合なんだけど単に百合じゃないんだよな。これどちらかというと少年誌の男子のスポーツ漫画にBLを見出すみたいな感じがある。そう、百合なんだけどブロマンスっぽい。

カップルが何組かあって、エースの詠深ちゃんとバッテリーを組む女房役の珠姫……そう、野球って捕手のこと女房って呼ぶんだよな、そういうところがある。バッテリーは男女の恋とか愛を超えた関係になる、なりやすい、だから前バッテリーを組んでいた投手に嫉妬したりするのもバッテリーあるあるなんだけど、これってブロマンスの定番なんだよな。まあ野球の定番がそのままブロマンスの定番になってる、というだけなんだけど、女子野球でやったらそれは百合になるのか、というと、女の子同士になってもそれはブロマンスだよな、と感じている。

似たようなところで二遊間コンビというのがあって、綾ちゃんと菫ちゃんもまあカップルと言えなくはないんだけど、この二人の間こそ百合っぽさがない。二遊間を単なるコンビから一歩踏み込んだ関係にするには、むしろ決定的な差が必要だったりするんだよな。綾ちゃんと菫ちゃんは好対照な二人だけど実力的には近しくて、互いのプレーイングについてもよく知っていて、という関係なので、なんとなくそれ以上にならなさがある。

一番百合みを出しているのが選手同士ではなく、マネージャーにして司令塔の芳乃ちゃんと、チーム屈指の巧打者の希ちゃんの二人で、この二人は矢印が双方向ではなくて互いに一方通行なんだよね。芳乃ちゃんはあくまで選手としてみんなのことが好きで、でも希ちゃんにとっては芳乃ちゃんは特別になっている。これが百合っぽい。未完成の関係、不対照な関係、不均衡な関係に百合が生まれる。百合は完全に向かう不完全なはじまり。選手同士じゃなければ恋や愛になりうる。

球詠にはライバル関係の百合がいまのところない。夏大会で戦った選手が今後どういう関係を築いていくのかってところだとは思うんだけど、けっこう多様な人間関係を描いている作品だと思うのでたぶん描いてくれるんじゃないかなと期待している。


スポーツものだと人間関係がスポーツを通じたものになるので、単に男男とか女女ではいられなくなる。そういう異分子がありつつも、恋や愛をなげうってアスリートとしての頂点を目指すのか、アスリートとしての幸福をも達成するような恋や愛を超越した関係に辿り着くのか、アスリートとしての幸福と切り離された恋や愛の成就が果たされるのか、どれがあってもいいし、どれがいいとも言えないし、女子野球だから百合のスポーツものみたいにひとくくりにすることはできない。

球詠読んでくれ!

ハチナイの河北はレズ。