新種牡馬の仔たちが増えてきて、まだ今後どういうふうに塗り分けられているのか自分ではわからないので、今回は種牡馬に加えて牝系という概念で出走馬を見ていきたい。
まずは出走馬の父ごとに、その後、各馬の母を見ていくようにしたい。
ディープインパクト
ディープインパクト産駒は最多の三頭が出走。ただし過去5年ディープインパクト産駒による勝利はグランアレグリアのみ。
ディープインパクトの母ウインドインハーヘアはハイクレア牝系に属しており、自身もウインドインハーヘア系とも呼べる牝系を築きつつある。ハイクレア牝系もまた大きな括りでは世界的な大牝系であるアルトヴィスカー牝系に属する。アルトヴィスカー牝系に属する馬は多数おり、挙げるとキリがないが、興味があったら調べてみるといいだろう。 ウインドインハーヘアからはディープインパクトの他、重賞馬ながら種牡馬としてGI 7勝馬キタサンブラックを輩出したブラックタイドがおり、ウインドインハーヘアの娘レディブロンドからは帝王賞を勝ったゴルトブリッツが、レディブロンドの娘ラドラーダからは GI を2勝したレイデオロが出ている。ウインドインハーヘアの姉妹からも重賞馬が多数出ている。
ハイクレア牝系にはウインドインハーヘアの他、英ダービーや KGVI&QES など GI を4勝し種牡馬としても凱旋門賞馬バゴなどを輩出した Nashwan や GI を3勝した Nayef がいる。
キズナ
- ファインルージュ
- ソングライン
種牡馬二年目のキズナからは産駒ニ頭が出走。
キズナの父は前述のディープインパクト。
キズナの母キャットクイルはビワハヤヒデ、ナリタブライアン兄弟の母パシフィカスの半妹で、キャットクイルの娘に桜花賞、秋華賞の二冠馬ファレノプシスがいる。パシフィカスの娘にはジャパンカップ2着に入ったラストインパクトの母スペリオルパールがおり、孫世代にも活躍馬がいる。 パシフィカス、キャットクイルらの母であるパシフィックプリンセス自身もデラウェアオークスを勝利したGI馬であり、日本国内でパシフィックプリンセス系とも言うべき牝系を築きつつある。
ミッキーアイル
- メイケイエール
- ミニーアイル
期待の新種牡馬ミッキーアイルから産駒ニ頭が出走。
キズナと同じく父はディープインパクト。
二代母アイルドフランスは米や仏で重賞2勝、仏GIマルセルブサック賞2着に入るなどの成績を収めているほか、ミッキーアイルの母スターアイルの半妹となるアステリックスからはNHKマイルカップを勝ったアエロリットがおり、国内で牝系を発展させつつある。
モーリス
- ストゥーティ
- シゲルピンクルビー
モーリスの母メジロフランシスはメジロ牧場で発展した名牝系メジロボサツに連なる馬。メジロボサツ牝系にはオークス、秋華賞の二冠馬メジロドーベルがいるほか、重賞ウィナーが多数いる。
メジロボサツは戦前にグループ創設前の社台牧場が輸入したデヴオーニアに連なる日本古来の牝系で、今日にこの牝系から活躍馬が出ていることは感慨深いものがある。
キングカメハメハ
- ククナ
- アールドヴィーヴル
ディープインパクトとリーディングを争った名種牡馬キングカメハメハからは産駒ニ頭が出走。 キングカメハメハの母マンファスは世界的な大牝系であるアワーラッシー牝系に属しており、父キングマンボはミエスク牝系、二代父ミスタープロスペクターはこちらも世界的な大牝系であるフリゼット牝系に属す、という具合に代々の父が名牝系の血を持つ良血馬。
アワーラッシー、フリゼットについては挙げるとキリがないので割愛するが、歴史的名牝ミエスクについては触れておきたい。
本馬はリアルスティール、ラヴズオンリーユーきょうだいの三代母で、自身もGI 10勝を挙げた名牝である。
同牝系にGIウィナーがなんと10頭もいる。牡馬牝馬問わないし、直仔だけでなく孫以降の世代にも活躍馬がいることから、今後一層発展していくことだろう。
ルーラーシップ
- ストライプ
- ホウオウイクセル
父キングカメハメハの後継種牡馬として期待されるのがこのルーラーシップ。産駒ニ頭が出走。
ルーラーシップの母はエアグルーヴ。
エアグルーヴの母はオークス馬ダイナカール。エアグルーヴ自身もオークス、天皇賞・秋を勝ちGI 2勝。子のアドマイヤグルーヴはエリザベス女王杯を連覇し、更にその子からダービー馬ドゥラメンテが出るなど、著しい活躍をしている。
半姉カーリーエンジェルからも高松宮記念馬オレハマッテルゼが出ており、ダイナカール牝系ともいうべき一大牝系を築きつつある。
ロードカナロア
- ジネストラ
キングカメハメハ後継種牡馬として既に実績のあるロードカナロア。産駒は一頭が出走。 ロードカナロアの二代母サラトガデューは米GI 2勝を挙げているが、近親に他に目立った活躍馬はいない。牝系祖先を辿っていくと、ロードカナロアの六代母 Somethingroyal の四代子孫にニシノフラワーがいる。
リーチザクラウン
- ブルーバード
スペシャルウィークの後継種牡馬としてなかなかに良好な成績を収めているリーチザクラウン。産駒一頭が出走。 リーチザクラウンの二代母クラシッククラウンは米GIを2勝。トリプルティアラ馬クリスエヴァートを輩出したミスカーミーの牝系で、同牝系にはケンタッキーダービーなど米GIを3勝したウィニングカラーズ、ジャパンカップ馬タップダンスシチー、ダービー馬ディープスカイ*1など、多数の活躍馬がいる。
リーチザクラウンの父スペシャルウィークの母は日本古来のフロリースカップ牝系から発展したシラオキ牝系に属する馬で、同牝系の活躍馬にはダービー馬ウオッカ、菊花賞馬マチカネフクキタルなどがいる。
クロフネ
- ソダシ
非ヘイルトゥリーズン系の種牡馬として活躍したクロフネは、スリープレスナイト、カレンチャン、ホエールキャプチャ、アエロリットなど特に牝馬に活躍馬が多い。また大阪杯を制したレイパパレの母シェルズレイもクロフネ産駒。
桜花賞には既にGIを勝っているソダシが出走。
クロフネの半妹ミスパスカリからはマウントロブソン、ミヤマザクラのニ頭の重賞ウィナーが出ているが、他に目立った活躍馬はいない。ただし同馬から優れた牝馬が多数出ていることは事実で、桜花賞でも注目すべきだろう。
スクワートルスクワート
- ヨカヨカ
スクワートルスクワートは九州競馬で活躍馬を出している種牡馬だが、中央では目立った成績はない。五代母の五代子孫にダートGIを4勝したゴールドアリュールがいるが、近親と言えるほどではないし、一大牝系と呼べるほどでもない。
Kingman
- エリザベスタワー
唯一の海外種牡馬 Kingman からは一頭が出走。Green Desert 系の種牡馬として既に実績を出しているが、同系統では日本国内には近年目立った活躍馬がいない。 Kingman の母 Zenda は GI 1勝を挙げた馬。二代母の子 Oasis Dream は GI 3勝している。
続いて牝系を見ていく。
ホウオウイクセル
メジロドーベルの孫である本馬はもちろんメジロボサツ牝系に属する馬である。 メジロボサツは母の父の牝系がフラストレート牝系、二代母の父の牝系がフロリースカップ牝系という由緒正しい日本牝系だが、ホウオウイクセルの母父がスペシャルウィークであり、ここにもシラオキ牝系の血が入っている。フロリースカップ牝系からは先週大阪杯を制したレイパパレが出ている。近年にも日本牝系から活躍馬が出ているのは馬産地の努力にほかならず*2、こういう馬を応援したいと思っている。
アカイトリノムスメ
母は牝馬三冠馬アパパネ。アパパネ産駒はコンスタントに勝ち上がってはいるものの、重賞戦線で活躍する馬は出ておらず、ようやくの重賞ウィナーが本馬である。 アパパネは大牝系であるアフェクション牝系に属するので、もちろん本馬もアフェクションの末裔になる。 アフェクション牝系には、KGVI&QESを制覇し、歴史的名牝エネイブルの父となったナサニエルなどがいる。他にも多数の活躍馬が出ているので興味があれば調べてみてほしい。
ソダシ、メイケイエール
ソダシ、メイケイエールは両馬ともにシラユキヒメの一族。 シラユキヒメは珍しい白毛の馬で、娘のユキチャンが関東オークスを制し、繁殖牝馬として一定の成功を収めているが、子孫馬から中央重賞馬ハヤヤッコ、ソダシ、メイケイエールが出ており、近年発展が著しい。
メイケイエールの二代母ユキチャンは父がクロフネ、ソダシは父がクロフネなので、いずれにもクロフネの血が入っている。
ソダシは母父キングカメハメハで、こちらに名牝系の血が流れていることを考えると血統構成はソダシのほうに魅力を感じる。
サトノレイナス
全兄に弥生賞馬サトノフラッグがおり、実績がある。母バラダセールはアルゼンチンオークスとアルゼンチン1000ギニーを制したアルゼンチン牝馬二冠馬。二代母もアルゼンチンのGI馬であり、力のある牝系だと言えそうだ。
アールドヴィーヴル
英オークス、英セントレジャー、ヨークシャーオークスの GI 3勝を挙げた名牝 Sun Princess に連なる牝系で、Sun Princess の仔バレークイーンにはダービー馬フサイチコンコルド、皐月賞馬アンライバルドがいるほか、バレークイーンの仔グレースアドマイヤには皐月賞馬ヴィクトリーがいる。本馬の二代母スカーレットはそのグレースアドマイヤの仔であり、ヴィクトリーの半妹に当たる。
Sun Princess 自身も大牝系であるパラフィンラス牝系に属している。
シゲルピンクルビー
大牝系であるトーペンハウ牝系に属する。トーペンハウ牝系には近年発展が著しい Best in Show 牝系がある。
Best in Show 牝系の近年の活躍馬はなんといってもアーモンドアイ。アーモンドアイの母フサイチパンドラもまたエリザベス女王杯を制したGIウィナーである。アーモンドアイの四代母が Best in Show である。Best in Show の仔 Sex Appeal にラストタイクーンを輩出したトライマイベストがいる。ラストタイクーンはキングカメハメハの母父なので、日本馬の血統表を見るとよくこの名前が出てくる*3。
シゲルピンクルビーの五代母 Stolen Date が Best in Show の半妹。二代母ムーンライトダンスがGIII愛インターナショナルステークス勝ち馬で、その半兄が愛ダービー馬 Grey Swallow である。Stolen Date の子孫には他に香港のQE2世カップなどを制したデザインズオンローム、愛オークス馬カヴァートラヴがおり、このように多数のGI馬がいる。Best in Show と Stolen Date の母である Stolen Hour の血が偉大だったということになるだろう。
シゲルピンクルビーの半姉シゲルピンクダイヤもクラシック候補で桜花賞3着、秋華賞2着と健闘している。
ストゥーティ
二代母がデルマーオークスを制したシンハリーズ。母リラヴァティの半妹にオークス馬シンハライトがいる他、リラヴァティ自身も重賞ウィナーである。四代母 Bayonne の子孫に英GIジュライカップを制した Mayson がいる。
エリザベスタワー
母ターフドンナは独オークスの勝ち馬。二代母 Turfaue の全妹ターフローズは伊GIリディアテシオ賞*4を勝っているなど、近親に活躍馬が多い。ターフドンナもターフローズもドイツ生産馬であり、どうやらドイツの在来牝系のようである。
エンスージアズム
四代母 Track Robbery の子孫にブリーダーズカップクラシックを制した Theif Cat がいる他、半姉 Tapicat は米重賞を勝利しており、それなりに力のある牝系と言えそうだ。
ファインルージュ
近親の活躍馬に全日本2歳優駿を勝ったノーヴァレンダがいる他、多数の重賞馬がいる。少し遠いが、五代母 Gay Apparel の子孫にオーサムアゲインステークスを制したムブタヒージがいる。
ミニーアイル
母アイランドファッションは米GI 4勝を挙げている。近親馬は重賞で好走しており、いずれは重賞馬が出てくるだろうと考えられる。
ジネストラ
母ハッピーパスは重賞馬で、本馬のきょうだいにも重賞馬がいる優れた牝系。ハッピーパスの半姉にマイルチャンピオンシップを制したシンコウラブリィがいる他、四代母 Madelon の 半姉 Contrail の子孫にタイキシャトル、阪神JFを制したピースオブワールドがいる。
ヨカヨカ
二代母ハニーバンはピルサドスキー、ファインモーションの半姉。五代母 Gaily の子孫にはメトロポリタンハンデを制したサージョンホークウッドをはじめ、多数の重賞ウィナーがいる優れた牝系。
ヨカヨカの父スクワートルスクワートは中央ではあまり存在感がないが、牝系を見るとこの馬がクラシック候補の一頭に名乗り出ているのも納得できるだろう。
ソングライン
三代母ソニンクはアコースティクス、ライツェントの母。アコースティクスからはダービー馬ロジユニヴァースが、ライツェントからは秋華賞と英GIナッソーステークスを制したディアドラが出ている。この他にも多数の重賞馬が出ている。
ブルーバード
近親にGII日経賞を制したメイショウテッコンがいる他、三代母 Fagers Charisma の子孫に米GIを2勝した Tout Charmant がいる。
ククナ
二代母クルソラはアルゼンチンGIを2勝。母クルミナルも桜花賞2着と好走しているが、他に特筆するところはない。
ストライプ
二代母の半姉に米GIで2着3回のマックスジーンがいる以外には、目立った活躍馬は出ていない。
ざっと流す感じになった馬も多いが、後半もしかすると見落としがあるかもしれない。気になった人は調べてみるといいだろう。
父系と牝系の両方が噛み合ってなお、調教がよく仕上がり、鞍上との息が合って、得意なコース、馬場状態、枠などの条件が揃い、この上で展開が当てはまって初めて万全、というわけで、競馬に絶対がないということがよくわかると思うが、牝系は重要な材料の一つであることは言えると思う。逆に父系は材料の一つでしかないにも関わらず、話題になりすぎているような気もする。単純に考えても父と母で半分ずつの血を引く*5わけだから、牝系にも目を向けたほうがいいだろう、と思って書いた。こちらからはどの馬がよさそうだ、ということは言わないが、これを見て考えてもらえばいいだろう。
個人的にはホウオウイクセルを応援している。
こちらからは以上です。