ヘイローとリファールの甘い蜜月

ヘイローとリファールにニックスがあるということは割と以前から知られている。

ダンシングブレーヴ×ヘイローのキングヘイローは言うまでもないが、

ホワイトマズル産駒はこの他にイングランディーレヘイルトゥリーズン系のリアルシャダイを母父に持つ。ダンシングブレーヴ産駒のコマンダーインチーフも母父がロベルトでヘイルトゥリーズン系との組み合わせになっている。こんな具合にリファール系にヘイロー系やヘイルトゥリーズン系の組み合わせの活躍馬が多く出ているし、逆にヘイロー×リファールという組み合わせでも数多くの活躍馬がおり、

という具合になっている。

ヘイルトゥリーズンまで広げるなら、モーリス産駒のピクシーナイトの母父がキングヘイローで、本馬をきっかけにヘイルトゥリーズン系×母父キングヘイローが注目されるようにもなった。

ヘイルトゥリーズン系の父に母方5代までにリファールを持つという組み合わせならば更に増える。

さて、ディープインパクトは言わずもがな種牡馬として大成功しているし、ドバイシーマクラシックで圧巻のパフォーマンスをみせた昨年の年度代表馬イクイノックスはキタサンブラックに母父キングヘイローという、ヘイローとリファールのクロスを持つ血統になっている。その父のキタサンブラックも父ブラックタイドにリファールを持つ肌馬という組み合わせだから父内にリファールのクロスを持っている。

じゃあなんでヘイロー(ひいてはヘイルトゥリーズン、ターントゥ)とリファールの相性がいいのかということをちょっと探ってみたい。


まず、リファールから。

5代血統表を見るとまず目につくのは Pharos と Fairway の全きょうだいインブリードだろう。これは当時はけっこう流行っていて、同年代の活躍馬を見るとこのようなインブリードを持つ馬はわりと多くいるし、この馬が特別という感じではない*1

他に Gainsborough の5×5が見える。ノーザンダンサーGainsborough の4×5を持っているから、Gainsborough についての系統繁殖を意図したのかもしれない。

5代からは見えないところでいうと、父ノーザンダンサーの母母父 Mahmoud と 母 Goofed の二代父 Fair Trial はそれぞれ Lady Josephine 牝系に属する。5代外の遠いクロスにはなるが、Lady Josephine の7×5を持っている。

リファールは現役時代は豪脚の追込馬で、主にマイルで活躍したが、産駒はダンシングブレーヴをはじめ中距離からクラシックディスタンスでの活躍馬も出している。ダンシングブレーヴもまたキレのいい末脚を持った馬だった。

つぎにヘイロー。

ヘイローはなんといっても従兄にノーザンダンサーを持つ。つまり二代母が同じく Almahmoud である。Almahmoud の父は Mahmoud だから……と、ここで結論を出したくなるが、その前に、ヘイローの父系を見てみよう。三代父は Royal Charger で、その母 Sun Princess の二代母は Mumtaz Mahal だから、Mumtaz Mahal の6×5を持っている。ということは、7代と6代に Lady Josephine を持つ。

ヘイローが現役時代にどんな走りをしていたのかはちょっと資料が見つからなくてわからないが、産駒の傾向としては逃げ馬や先行馬が目立つ。サンデーサイレンスデヴィルズバッグがそうだったし、サンデーサイレンスの産駒も、先行馬が多い傾向がある。サンデーサイレンス産駒として鋭い末脚を持っていた馬といえばディープインパクトだが、これはおそらく母父を通じてリファールの脚が伝わったんじゃなかろうか。


リファールにヘイローを合わせると、血統表のごくごく深いところで Lady Josephine のクロスが現れる……という、Lady Josephine についての系統繁殖になっている。ただ、Lady Josephine やその仔 Mumutaz Mahal 、孫 Mumutaz Begum は言うまでもなく現代の血統表の至るところに子孫馬がいるという競走馬の祖といえる名牝なので、血統表のごく深くでクロスしているなんていう馬はそこら中にいる。それこそノーザンダンサー×ナスルーラとか、それだけで成立してしまう。そういった馬に活躍馬がいないかというと当然たくさんいるが、それ以上に特に活躍していない馬もたくさんいるし、後知恵で言っているだけではある。

ただ、たとえばリファール最高傑作たるダンシングブレーヴは、リファール×サーゲイロード(ターントゥ系)だし、ディープインパクトの母父アルザオも、リファール×サーアイヴァー(ターントゥ系)で、前述のイングランディーレやピクシーナイトも、リファールにヘイルトゥリーズン系をかけ合わせた配合になっていて、ヘイローに限らずターントゥ、ヘイルトゥリーズンがそもそもリファールと相性がいい。それはおそらくは Lady Josephine に由来するであろうと思っている。ハーツクライキャプテントゥーレの例から、リファールが遠い血統であっても、たとえばナスルーラとかカラムーンを通じて Lady Josephine の血を重ねているということも言えるかもしれない。


今日皐月賞を勝ったソールオリエンスの末脚は父のキタサンブラックのものではなく、祖父ブラックタイドでもなく、祖父の弟のディープインパクトを彷彿とさせるものだった。父も父母父も母父も母母父もいずれも前で競馬をするタイプの馬だったから、ソールオリエンスのこの豪脚がどこからもたらされたのか、おそらくキタサンブラック内のリファールの血が顕在化した、それ以外だったらちょっとよくわからないですね、としか。

イクイノックスはヘイローとリファールのいいとこどりともいえる自在な脚質で、キングヘイローに期待されていた「ぼくのかんがえたさいきょうば」像をそこに見たりもしたが、母からリファールやヘイローを刺激しなければ父内のリファールが強く出る、というのがキタサンブラック。そういうこともある……のかなあ?

もちろん同じ父と同じ母からでもぜんぜん違う馬が生まれてくるのだから、そんなに単純な話ではないということは充分承知している。でもこうやって血統表を見てああでもないこうでもないと考えるのは楽しい。とても楽しい。

今後ディープインパクトキタサンブラックキングヘイローを通じてリファールの血が日本競馬の中で更に存在感を発揮していくだろうと思うし、それがこれからも楽しみでならない。

翌々週の春の天皇賞では、父キズナ母父キングヘイローのディープボンドはもちろん、父オルフェーヴルに母母父リファールのシルヴァーソニックが走ります。激走に期待! 去年? 空馬? ウッ、アタマが……。

こちらからは以上です。


追記。

Petingo がリファールに似た血統構成をしているということを注記してから気付いたんだけど、ホワイトマズルの母父 Ela-mana-mou の二代父が Petingo なので、ホワイトマズルは5代ではアウトブリードながら、深いところではリファールと Petingo の相似配合になっている。ホワイトマズルがとりわけヘイルトゥリーズン系と相性がいいのはこういう血統背景があるからだったのかも。

なお、リトルアマポーラの母リトルハーモニーも、父がコマンダーインチーフ、母父が Ela-mana-mou の父ピットカーンの全弟 Valley Forge で、ホワイトマズルに似た血統構成になっている。コマンダーインチーフの母父はロベルトなのでサンデーサイレンス系との配合ではヘイルトゥリーズンのクロスが生じ、これが強く出ればリファールを引き出し切れないところを、リファールと似た Petingo でリファールの奥底の血を補強する形になっている、と考えることができるかもしれない。

*1:たとえば Petingo もリファールとよく似たクロスを持つ