ラノゲツクールMVを無料体験してみた感想

ラノゲツクールMVが週末限定で無料でお試しできるということだったので試した。

ざっくり使ってみた印象としては、UIが整理されていなくてあまり使いやすくはなかったものの、シーンのプレビューが即時にできるなどのアイデアは悪くないし、機能も充実している。使い勝手が改善されればというところだけど、現時点ではビジュアルノベルを作りたい人にはティラノビルダーを使うことをオススメする。

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2ペイン、左上がシーン管理、左下がコマンドパレット、右上がシーンプレビュー、右下がシナリオエディターという感じになっている。

シーン管理は使ってみてないのでわからない。

コマンドパレットは、見てのとおりアイコンがたくさん並んでるんだけどただ並んでるだけという感じで、整理して配置されているティラノビルダーに比べて視認性が低い。
また、シーンとムービーのアイコンがどっちもムービーとも受け取れるような感じになっているし、ピクチャーと画面も似たようなアイコンになってしまっている。メッセージとテキストが分離しているのはやや戸惑うところがあるが、テキストは画面に文字を配置するためのコマンドなので、メッセージとは目的が違っている。違っているのだが、このあたりってひょっとしてピクチャとひっくるめて画面にオブジェクトを配置する命令としてまとめたほうがよかったんじゃないのか……?

並び順も妥当ではない気がする。
おそらく一番良く使うのはキャラクターとメッセージなのだが、これらを真っ先に配置したほうがよい。

個別のコマンドの並び順もいまいちわかりにくい。
たとえばキャラクターの中を見ると表示系が最下部にいる。シーンに登場させたり表情を変えたりすることのほうがよく使うのだから、これらを上に表示したほうがよい。
メッセージの表示に至ってはコマンド中央に埋没してしまっている。一番良く使うコマンドをこんなところに置くべきではない。

シーンプレビューは、実際に画面を見て確認しながら編集できて便利だと思うが、メッセージ入力中にリアルタイムにメッセージを拾ってくれるわけではないし、シナリオエディタで項目をクリック(すでに選択中の場合はダブルクリック)して再生し直す必要がある。
再生のたびに画面を表示し直していてとてもちらつく。画像系は変更がない限り再描画しなくていいんじゃないのか。このちらつきがかなり気になるので厳しさがある。

いちばんの曲者はシナリオエディター自体で、まずメッセージ入力に注力しづらい。ビジュアルノベルはとにかくメッセージを入力してキャラクターの表情をコロコロ変えて効果音や画面効果で演出をしてという感じのことをやるのがメインになると思うが、それらに集中しにくい。すべてのコマンドが複雑な入力フォームでパラメータを設定する感じになっている。パラメータ自体もとても多い。

パラメータは細かく設定できるに越したことはないが、毎回毎回細かく設定することはない。基本的には同じようなパラメータを使い回すことになるので、これらはプリセットを定義しておいて読み込むようになっているほうが使い勝手がよい。メンテナンス性も高い。後からパラメータを設定し直すのは地獄でしかない。
いちおう既定というコマンドがあってデフォルト値は設定できるのだが、複数のデフォルト値を交互に切り替えたりするのはできない。そのために変数とかを使うんだろうと思うのだが、変数を細かく設定するのは割と骨が折れる。

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画像の座標をプレビューを見ながらドラッグで決定できるのはよいように思う。ただ同じパラメータはたぶんよく使うので、そうして決めた数値をプリセットにしたい。

背景色がコマンドの種類ごとに分かれているが、色わけはヘッダーだけで充分に思う。ヘッダーと詳細が分離したデザインになっていないのでむずかしいと思うが……そのあたりのティラノビルダーのUIを見るとよく出来ていることがわかる。

後発のGENEを引き合いに出すのもフェアではない気がするが、タイムラインエディターであるGENEのほうがグラフィカルエディタとしては一歩先にいる気がしてならない。ウェイト/続行の概念とかはコマンドリスト型だと把握しづらい。RPGツクールがそうなっているからRPGツクールでイベントコマンドを入力していると慣れるんだが、ビジュアルノベルは演出が並列して実行されることが多いので、どのコマンドが並列なのか見た目で把握できる作りになっている方が望ましく、その点でGENEのタイムラインエディターは理にかなっている。
とはいえ、GENEとRPGツクールMVでビジュアルノベルを作るのがいいかというと、一度作ったシーンをツクール上で編集してしまうとGENEで再編集しづらいことを考えると厳しさがある。今後ツクールのプリセットコマンドの対応が増えるとそのへんは改善するかもしれないが……。

ただ、ラノゲツクールMVはかなり多機能で、パスに沿って画像を動かしたり、UIパーツを画面に配置したりということが自由にできる。シミュレーションを作ったりするときには実際に画面を見ながら作れるのは大いに利点になると思うし、ちょっとしたシミュレーションを作るのにUnityを引っ張り出すよりはラノゲツクールのほうが小回りが利くだろう。

結論としては、ビジュアルノベルを作るなら現状ではティラノビルダーを使ったほうがよい。無料版には制限も多いが、PRO版はラノゲツクールよりずっと安い。ラノゲツクールはビジュアルノベルでなく恋愛シミュレーション向きなのかもしれない。

カクヨムの作品をフォローしたり応援したりレビューしたりすることについて

カクヨムの話。最初は近況記事に書こうと思ったんですけど、やめました。

どういう意図で行われたにせよ、作品をフォローしていただいたり星をつけていただけることは嬉しいと思っていますし、ありがとうございますと思っています。
まず読んでくれるだけでもありがたいことなので、PV が 1 でも増えていればそれだけでも嬉しいです。これはおためごかしでもなんでもなく真実そう思う。

読んでいて「ああこれは望むものとは違っていたな」という気持ちでフォローを外すこともあるでしょうし、つけた星を取り下げることもあると思います。作品のとの出会いってそういうものですよね。

いつも読んでいただきありがとうございます。

さて、カクヨムの近況記事を作成するページには、右側に注意書きがあります。

「不適切な記載はしないで下さい」

という見出しの下、

「相互評価の打診など、読者へ不当な評価を要望する内容」

ということが書いてあります。
ぼくはこれ、逆に「不当な評価をしないでください」っていうことを書きたいんですよね。
今いただいている評価はよきにつけあしきにつけ正当な評価だと思います。ありがたいことです。
実はあまり妥当でない評価もありました。いまはもうありません。
というよりは、評価が取り下げられたことで「ああやっぱり妥当でない評価だったんだな」と思ったというか、でもやっぱりあれは妥当でない評価だったと思うので、取り下げてもらって感謝しています。

しっかり読んでくれる読者のほうが多いんですよね。
いつも読んでくれる人、応援してくれる人、本当にありがたく思っていますし、励みになっています。
でもぼくも人間なので、ちゃんと読まない人の妥当でない評価の雰囲気を感じ取ったら、気にしたりはします。

ぼく自身は、自身の作品を読んでもらうために作品をフォローしたり星をつけたりすることはありません。フォロー機能は作品を読むためのものだと思うし、実際読むつもりがない作品をフォローするとフォロー中の作品一覧に未読ばかりが並ぶことになりますよね。不便じゃないですか? ぼくは不便だと思うのでやりません。
読んでない作品に星をつけたり応援したりすることもしません。読んだから必ずしも星をつけるというわけではないのですが、星をつけたり応援するのは読んだときだけです。
星の付け方はまだ自分の中でどうするのがいいかわかってなくて、書き手の人に誤ったメッセージを届けないようにということを考えています。

ぼくがこうしているからといって、他の人にカクヨムの機能はこう使ったほうがいいとか、そんなことを言うつもりはないですし、自由に使ったらいいと思います。道具をどう使うかは使う人次第なので。ぼく自身が他人の使い方に対してどう思うとかは、それとは別にぼく個人の気持ちとして表明したいし、こうやって表明したけれど、それだって何の強制力もない、個人の意見にすぎません。

ただ、道具を使う先に他の誰かがいることは、忘れないでいたいなということを、個人的には思ったりしています。

トラベリングオーガスト2017行ってきたので千桃について振り返ってみるという記事を2017年中に公開しておかないといけなかったのでする

ナビゲーターとして仙台さんがサプライズ出演されていて、合間合間に宮国朱璃の独白という形でナレーションがあるのですがこれが本当に素晴らしかった。今回は(前回ユースティア未プレイでユースティアの演奏を聞いたのとは違って)千桃をプレイ済みだったので、もう千桃の物語を通して朱璃というキャラクターの内面を知っているわけで、その上で、朱璃と一緒にオーガストの過去作をめぐる旅をする、しかも仙台さんのやさしいナレーションつきでですよ。なんていうかなんていったらいいのかぼくはもう語彙が消失してしまっているので完全にダメ。

あたらしく作品が出てくることによって過去作の割合が減ってしまうのはやや寂しい気持ちもありますが、FORTUNE ARTERIAL は前回わりとたっぷりやってますし、逆に前回なかったけよりな以前の作品の BGM をやってくれたのはよかったと思っています。個人的には大図書館の BGM やってほしいなーと思ったりもするんですが、あれはオーケストラよりバンドアンサンブルのほうが相性いいかもしれないなーということを思ったりします。そういえばきょねんのオーガストライブ2016で各作品のBGMのメドレーがあったんですけど、大図書館は特にゴキゲンな感じでよかったです。


千桃はなんかレビューみると割と期待にそぐわなかったという声を見かけます。ぼくはめちゃくちゃ好きですし、2016年の中では傑出した作品の一つだと思っています。 ほかのヒロインの扱いに対する不満に関してはなんとなくわかる気もして、これは朱璃のための物語なんだろうと思います。


ちょっと古い作品を引き合いに出すと、たとえばS.M.Lのカーニバルは、完全に学と理紗の物語で、詠美が報復されるのはともかくとしても、ほかのサブヒロインに関してはシーンに必然性とかなくて、商業上の理由でそうなっているだけでしかない。そうすると、分岐のこと忘れてメインのルートだけ考えたときにシナリオの完成度どうかっていったら、枝分かれした別になくてもいいサブヒロインのシーンの存在によってまったく損なわれることないですよね、と思っています。カーニバルはちょっと極端な例だとは思いますが、ぼくは各ヒロインがメインのルートにおける役割考えると誰も不要なキャラはいなくてそれぞれがそれぞれの役割を発揮し、個性を表現して、みんな魅力的に描かれてたと思うんですよね。


ぼくはたとえば FORTUNE ARTERIAL は総じて好きなゲームなんですが、悠木姉妹ルートについては別に物語上の必然性はあんまりないなということを思っていて、にもかかわらずそこを経由しないとトゥルールートが解禁されないことについてはやや不満を感じています。悠木姉妹がヒロインとして魅力的でないかというとそれはそんなことなくてちゃんとかわいいし、メインルートにおいての存在感もちゃんとしっかりありますが、どうしても個別ルートについてはそんなに重要な感じではない。主人公の過去の話に噛んでたりはするのでまったく重要でないことはないんですけど。ひょっとすると FORTUNE ARTERIAL はユースティアみたいにメインルートから枝分かれする形式のほうが馴染んだのかもしれないなーということを思っています。


で、千桃は朱璃のための物語だという話なんですが、それはもうめちゃくちゃ贅沢な話です。グラフィックも演出もBGMも抜群によく、シナリオのボリュームも充分にあって、しかもプレイしてみるとテンポよく物語が進んでいくので、いい意味でもう終わってしまうんだなあ寂しいなあという気持ちにさえなる。でも他のヒロインのルートはたぶんですけどどこまでいってもおまけ以上にはなりえないと思っています。確かにこれだけ贅沢な作品の中で、各ヒロイン個別ルートの中で各ヒロイン特有の問題を用意してそれを解決する、パラレルなルート分岐をするいわゆるふつうのエロゲと同じことやっていいのかどうかというと、それって FORTUNE ARTERIAL のときにぼくが悠木姉妹ルートに感じたのと同じようなこと回避できないんじゃないのか、と思ってしまう。

たとえばユースティアもトゥルーエンドを見た後の個別ルートというのはちょっと薄ら寒いところあるんですよね。この一見幸福に見える結末って本当に幸福な結末なのか? もちろんぼくはそれ込みでトゥルールートの価値を感じているんですが。


好みの話だけをいうと、ユースティアの息が詰まるような空気感とか緊張感とか、個別ルートに入らなかったその後のヒロインたちの強かさとか、ああいうのはぼくが特に好きなものなので、ユースティアに比べると千桃は全体的に爽やかな話ですね、という印象で、ユースティアほど強い衝撃は受けなかったんですが、たとえば主人公とメインヒロインのやり取りに関しては千桃のほうが好きだったりしますし、それぞれの作品にそれぞれの作品固有のよさがあって、それを抜きにして比較してもしょうがないことだなあということも思います。

完全に期待を除外してまっさらな気持ちで作品にのぞむということはとてもむずかしいことだとは思うんですが、作品によって目指すものが違う以上は、他の作品がどうだったということは思考の埒外におくようにしたほうが作品を楽しみやすいよね、というのがぼくの考えで、作品を楽しむために受け手側の工夫が必須とまでは言わずとも、いらないってこともないだろう、と思っています。

「JKハルは異世界で娼婦になった」読みました

novel18.syosetu.com

書籍はまだ読んでないんだけど電子版を買う予定ではいます。


結論から言うと、巷で言われているほどにひどい作品ではないし、面白いか面白くないかでいえば面白い部類の作品だとは思いますが、読み手が予想する着地点と実際に提示された着地点の齟齬が非常に大きな作品だと思うので、そこが受け入れられるかどうかによって作品に対する評価は大きく変わると思います。
ぼく個人はこの結末を諸手を挙げて受け入れることはできないと感じています。


この作品を一言であらわすなら「アンチなろうヒーローもの」でありかつ「アンチなろうヒロインもの」です。「アンチなろうヒーローもの」は別に目新しい作品ではない*1ですが、今作では「アンチなろうヒロインもの」を補強する題材になっています。つまり芯は「アンチなろうヒロインもの」であるわけです。
今作はなろうの「都合のいいヒロインたち」ではないヒロインを描いた作品だといえるでしょう。その点ではよかったと思います。

ただ、終盤の展開は、正直にいって序盤の展開との食い合いがよくなかったと感じています。

スキルがなくて体を売るしかないかつてカースト上位だったヒロインと、スキルによって調子に乗ってるカースト下位の陰キャという対称性を見せておいて、それを補強する話を展開しておきながら、実はヒロインの女の部分が最強のスキルだったというオチにするのは、その対称性を破壊するだけで、結局ヒロインも陰キャも大差ない、なろうのどうしようもない主人公の範疇を出ないですよ、という話になってしまう。ひょっとするとそれが書きたかったのかもしれないんだけど、だとすればそれ以前の展開の書き方はその結末に向けて読者を導くべきだしそうはなっていない。

また、別にこういっちゃなんですけど、スキルなんかなくても、終盤の無双シーンなんかなくても、充分に彼女の怒りを描くシーンは表現できたんじゃないですかとも思っています。そのほうがアンチなろうヒロインとしての強度は増すと思うし、単にどんでん返ししたかっただけなんじゃないかとうがってしまう。
また逆に、あのようにどんでん返しをせずとも、最初からスキルの存在をほのめかす、あるいは明示しても、スキルに頼らずに生きていくことを描きつつ、結局はスキルによって問題を解決するようにしても、それはそれで無常観があり、充分に物語は演出できたんじゃないですか。

もしどんでん返しがしたかったのなら、もっと伏線を張るべきだと思いますが、それはたぶん題材との相性はよくないと思います。
痛快ではあるけど、痛快に描いてしまったら、彼や彼女のどうしようもなさが茶化されてしまう気がする。というか実際ぼくは茶化されているように感じた。それでよかったんですかね。
どうしようもないなろう主人公はやっぱりどうしようもないですよ、ということを書くのに、スキルで無双する痛快さを肯定的に書いてしまってるから、どうしてもちぐはぐに感じてしまう。ひょっとするとなろう主人公はどうしようもないということを書きたかったわけではないのかもしれないんだけど。だとすればこの作品は何を書きたかったんだろう。

Web小説は形式としては連載で、書いているうちに軸がブレてしまう作品も多く、この展開べつにいらなかったよねとかそういうものもあるんですが、たいていは大長編だったり超長編だったり大河だったりで、幕間の話として納得できたりもする。そうするとこれくらいの尺の話、つまり短編から長編のスケールって、いかに推敲して完成度上げるかってところだとも思うんですよね。ぼくは本作はけっして完成度の高い作品ではないと思うんですけど、べつにそれは設定だったりなんだりというところではなく、単純に着地点とその提示がミスマッチだという点でそう感じています。
文自体がつまらなかったりするわけではないし、題材もよかったと思うんですけど、読み終わってみると「もっとこうしたらよかったのにね」というのがもったいないというのとも違う、単に納得のいかなさみたいな感じとして残ってしまい、もやっとしています。


シャワーに関しては本当にどうでもいいところで、シャワーの有無によらないところで現代日本と異世界との差は書いていると思うし、この作品にとってはそれで不足とは感じていないのですが、まあ人によるかもしれないですね。正直なところシャワーが気になる人はシャワーよりもっと前の段階で違和感を覚えたんじゃないですか。単にトリガーがシャワーだっただけ、ということのような気がするし、それは自転車置き場の屋根をどうするかっていう話と大差ないように思います。
錬金術あるからシャワーくらいあるよ、っていうことで、それについては別に説明しないし本題じゃないですよ、という意味では、この作品の設定考証としてあれで過不足ないでしょう。

より話の題材に近いところの議論としては、シャワーがあることによって簡単に性の痕跡を洗い流せてしまうのことの是非だと思うんですけど、そういう議論をしてる人ってどれくらいいるんですかね。ちゃんと議論追っかけてないのでしらないんですけど。
ぼくはシャワーで簡単に洗い流せないほうが好き派*2なんですけど、この作品はシャワーで簡単に洗い流せてしまえることでちょっとニヒリスティックな雰囲気出てると思うので、作品には合ってるし、まあよしあしあって一概には言えないですね。

*1:たとえば盾の勇者の成り上がりがそうです

*2:もっと性の痕跡を生々しく書いてほしい派です