普段食べている野菜は意外とあたらしい

次のうち、平安時代よりも前には日本に存在しなかった野菜はどれでしょう。

  • ヤマイモ
  • ネギ
  • カブ
  • ニンジン

正解はニンジンです。今日ふだん食べているニンジンはヨーロッパ品種で江戸時代末期に伝わったものです。意外とあたらしいですね。ちなみに京野菜で知られる金時人参は東洋品種で、こちらは16世紀に中国から伝わっています。当時はニンジンではなく「胡蘿蔔(こらふ、こらふく)」と呼んでいました。ニンジンという名前は朝鮮人参の伝来以降で、もともとは朝鮮人参のことをニンジンと呼んでいたのが、後に見た目が似ていることからニンジンを芹人参と呼ぶようになって、やがて人参といえば今日のニンジンを指すようになっていきます。

ヤマイモ、ネギ、カブはいずれも和語です。名前が和語のものは古くからあったものである可能性が高いです。和語だから必ずしも日本に古くからある、漢語だから必ずしも日本に古くからない、とは限らないのですが、一つの目安になります。

  • ダイコン
  • ショウガ
  • タマネギ
  • ナガイモ

これは逆の例です。ダイコンは別名を「すずしろ」といいますし、そもそものダイコンも「おおね」の漢語読みに由来します。ショウガは古くはサンショウとともに「はじかみ」と呼んでいました。今は漢語で呼んでいても、むかしはそうでなかったものというものもあるわけです。一方、タマネギやナガイモは、玉のようなネギだからタマネギ、長いイモだからナガイモ、ということで、日本に古来からあるものになぞらえて名前がついているにすぎず、このような複合語については和語だから昔から日本にある、と断定することはできません。イモでいえば、サトイモとヤマイモだけが古くから日本にあったものになります。

さて、複合語でない和語ならおおよそ日本に古くからあったと考えてよさそうです。どれくらいあるでしょうか。

  • いも(サトイモ、ヤマイモ)
  • ねぎ
  • かぶ / すずな
  • おおね / すずしろ
  • ショウガ / サンショウ(=はじかみ)
  • せり
  • にら
  • うり
  • ふき
  • うど
  • わさび
  • たで

「うど」や「たで」がぱっと出てきた人はなかなか食材に詳しい人です。これ以上出てくる人は相当に詳しい人です。複合語としては「みつば」「あさつき」などがあります。語源不詳ながら、「くわい」も和語と考えていいでしょう。

さて、思ったよりずいぶん少ないと思いませんか。「ふき」などは日常的によく食べるというほどのものではないです。「うり」はマクワウリのことを指します。食べたことがないという人も少なくないでしょう。ふだんよく目にするのはネギ、カブ、ダイコン、ニラ、ショウガ、サンショウ、ワサビくらいです。セリはもはや野菜というよりは野草という印象さえあります。

逆に、よく使う野菜を思い浮かべてみてください。ジャガイモ、タマネギ、ニンジン、トマト、ピーマン、アスパラガス、サツマイモ、カボチャ、ホウレンソウ、キャベツ、ハクサイ、インゲン……いくらでもあげられるのでこのあたりにしておきますが、今挙げたような野菜は15世紀以降に日本に入ってきたものです。

上に挙げなかった野菜にはゴボウ、キュウリ、ナス、エンドウなどがあります。ゴボウは古代に、それ以外は平安時代までに日本に入ってきたものです。

レタスは、結球種でないものが奈良時代にチシャとして入ってきています。今日もカキヂシャとして食べているものです。結球種のレタスはもちろん江戸時代以降の伝来です。

江戸時代の初期からあるような野菜は、日本の伝統的な野菜と考えても差し支えないと思いますが、たとえばハクサイを食べるようになったのは明治時代からということなので、思ったより歴史の浅い食べ物です。まあ肉じゃがだってすき焼きだってせいぜい100年程度の歴史しかないのですから、だいたいそのようなものなんですけどね。


さて、なんでまたこういう話をしたかというと、ある時期に日本に入ってきたかきていないかだけで食べる機会のあるなしが決定されているなあ、と思ったからなんですが、たとえば、カボチャというと、ふつう皮が緑色のあのカボチャしか食べません。ところがハロウィンになると、皮がオレンジ色のカボチャを模したディスプレイを至るところで目にします。ほとんど食べる機会がないのに! ズッキーニは最近よくスーパーなどで見かけるようになりました。これだってほんの二十年前にはとてもめずらしい野菜だったわけです。

スウェーデンカブ、あるいはルタバガという種のカブがありまして、これはヨーロッパでは割と日常的に食べられているそうなのですが、日本ではほとんど見かけることがありません。日本にまったく伝わっていないかというと実は伝わってはきたのですが、受け入れられなかったので定着せず、飼料用くらいにしかならなかったようです。

思ったより食べたことないものが多いですね。

そう思ったので、日本で食べられないか、通販サイトなんかを見てみたことがあります。けっこう値段がするのと、時期を外すとまったく手に入らなくなる、という感じで、当時は諦めました。最近になって、「そういえばレストラン締まってるんだからレストラン向けの食材が市場に出回ったりする可能性あるな?」と思って、あらためて見てみると、ふつうに在庫がある!

で、先月試しにルタバガを買い、この間はゴールデンビーツ、パースニップ、根セロリフェンネル、リーキを買いました。ルタバガとゴールデンビーツ、フェンネルは試食済みで、根セロリ、パースニップ、リーキはまだ食べてないので、ぜんぶ一通り食べたら感想でも書こうと思っています。

フェンネルは葉っぱでもフェンネルシードでもなく、鱗茎の部分です。フィノッキオと呼んだりもする。

他にもいくつか買おうと思ったんですが、たとえばカーボロネロとかロマネスコは、いずれもキャベツ、ブロッコリーで味を想像しやすかったのと、わりとこのへんは手に入れやすいのでまた今度、という感じに。
アーティチョークは食べるのがめちゃくちゃ大変な上、可食部が少ないということが既知だったので、パスしました。たぶん生のアーティチョーク買うより瓶詰めとか買ったほうが楽ですね。

ということで、今なら変な野菜買えるのでみんなも買ってみてね。

こちらからは以上です。