最初見たときはローグライクをなんか勘違いしてるのかと思ったんだけどそうではなく意図的にローグライトと呼ぶらしい。
ローグライクという表現が妥当でないので妥当な表現としてローグライトと呼びましょう、という流れがある。
そもそもローグライクとはなんぞや、と言う話から。
ローグライクは文字通り「ローグのような何か」である。
「ローグらしさ」の解像度は受け手によって差があるが、ローグの特徴的な要素を挙げると以下のようになる。
- 恒久的な死。ゲームの進捗は死によって全てリセットされる
- 自動生成されるマップや不確定アイテムの識別といったランダム要素
- ターンベース。プレイヤーの操作スキルよりも思考を重視する
- サバイバル要素。行動で空腹になり、食糧で満腹度を回復させる
このあたりで、これらの延長線上に以下の要素がある。
- プレイヤーキャラクターは恒久的に死ぬが、プレイヤーが得たゲームのメカニズムに対する理解は失われない
プレイヤーのリアルスキルの成長がゲームの進捗となる - 状況判断と選択の重要性
プレイヤーはマップの構造や不確定アイテムの内容を記憶できないので、記憶に頼った決め打ちのプレイングをすることができない
状況に応じて最適な選択を取る必要がある - 高い難易度
プレイ回数が浅い間は難しいが、ゲームのメカニズムを理解していく中で攻略が可能になっていくような難易度カーブ - 高いリプレイ性
この延長線上の要素は、おおよそ「ローグが持っているプレイフィール」のことである。ということはこの延長線上の要素を満たせば「ローグのようなプレイフィールのゲーム」になるのではないか。
実際に巷にあるローグライクと呼ばれているゲームを見ていく。
まず、ローグ直系の子孫たる Hack と NetHack。最大の特徴はマップが保存されること。階段で上下階層へ移動しても、マップは保持される。「同じ階層の探索を後回しにして先に進む」ことができる点で「状況判断と選択」の味が若干元のローグとは異なっている。
Angband は、マップは訪問毎に生成されるが、拠点とダンジョンの行き来がしやすく、攻略と準備の2フェイズを繰り返す点でローグや NetHack などとは異なる。
二大ローグライクの時点でローグとは大きく異る要素を持っているが、ローグライクで構わない。見るからにローグに似ているし、これがローグライクでなければ何なのかということになる。
国産ローグライクの雄、不思議のダンジョンシリーズ。これはおおよそローグの要素を備えつつ、発展的な要素としてアイテム合成なりなんなりを加えている。なお筆者はビジュアルがアスキーアートであることはローグの本質ではないと考えているが、これが重要であると考えるユーザーもおり、プレイフィールの差もあって不思議のダンジョンをローグライクとは考えない、という人も多少いる。しかしこのあたりまでをローグライクと呼ぶことには、おおむね同意ができるんじゃないかと思う。
この先から少しずつややこしい話になっていく。
マインクラフト。これはサンドボックスゲームであると同時に、ローグライクゲームである。マップは自動生成されるが、一度生成されたマップは保持される。空腹度の概念があり、食糧を確保しながら探索するサバイバル要素がある。デスペナルティのみでリスポーンする設定にすることができるが、死ぬと全ての進捗が失われるパーマネントデスモードもある。ターンベースではないしグラフィックも3Dだし、何よりサンドボックスゲームなのでブロックを除去したり設置したりすることでプレイヤーが自身でマップの構造を変化させることができるが、たとえば NetHack にもつるはしがあって壁を破壊することができる。なるほどプレイフィールは確かにローグらしさがある。しかし、一般に、ローグライクの話をするときにマインクラフトの名前が上がることは少ない。
次に FTL: Faster Than Light。これは見るからにローグらしくない見た目だが、ローグライクである、とされることが多い。プレイフィールがローグっぽければローグライクなのだ。 FTL はターンベースではないし、戦闘が起きる船内マップ自体は自動生成されない。航行する宇宙がランダムで生成され、ランダムでイベントが発生する。ランダム要素はマップに存在しなければいけないわけではない。そして恒久的な死。繰り返しゲームプレイをしてメカニズムを理解し攻略を進めていくゲームである。遊んでみるとかなりローグらしいプレイフィールがある。
FTL をローグライクとして受け入れることができるなら、RimWorld をローグライクと呼ぶことにも抵抗がなくなるだろう。マップはゲーム開始時に生成されるが、以降はプレイヤーが掘ったり壁を作ったりしてマップの構造を変えていく。サンドボックス要素がある。イベントがランダムで発生し、プレイヤーはたびたび危機に陥る。住人が全員死ぬまではゲームは継続するが、住人が全員死ぬとそれまでの進捗のすべてが失われる。住人は空腹になったり病気になったり不幸になったりするので、各種リソースを確保して生存していく必要がある。統括すると、ランダムシナリオのサバイバルRTS、ということになるが、遊んでみるとおおよそローグライクだと感じる。
全体的なプレイ感は RTS のそれに近い。しかし、ゲーム開始時点でマップや配置がランダムで決定される RTS であっても、ふつうはそれをローグライクとは呼ばない。ローグライクらしいプレイフィールとは異なっているからだ。RimWorld はそうではなく、ちゃんとローグライクのプレイフィールがある。
さて、ローグライクのプレイフィールとここまで書いてきたが、たとえば仮に FTL がない世界で RimWorld をプレイして、それをローグライクと感じるだろうか?
ちょっと難しいかもしれない。これはむしろマイクラライクなのだ。サンドボックスサバイバルというジャンルで呼ぶほうが適切だろう。
あたらしいローグライクがあらわれると、それに似たゲームもローグライクと呼ばれるようになる。無限にローグライクが拡張される……ことはなく、やはりどこかでローグライクとそうでないものが分かれるところがある。そういう意味では RimWorld はローグライク要素を備えたゲームだとは言える。
もはやローグライクライクになってしまったものまでを含めてローグライクと呼んでいいのかという話は、よくわかる。
それをローグライトと呼ぶのが妥当だとは筆者は考えていない。
ローグライクを脱却する必要はある。マイクラはマイクラになったからローグライクとは呼ばれない。
近年の大ヒットローグライク Slay the Spire は、もはや Slay the Spire になった。これをローグライクと呼ぶ必要はないだろう。
しかし、Slay the Spire をローグライクに含めてもよいし、ローグライクについて議論をする上で、マイクラや Slay the Spire をあえて除外する理由もない。むしろ含めた上で議論をすべきだと思っている。
あたらしいジャンル名を増やしたところで、おそらくはそのあたらしいジャンル名も拡張し続けていく。ローグライトライクがどんどん作られていく。そうなったときにローグライトが何を指しているのか……ランダム性が強くプレイヤーが繰り返しプレイをして結果を得るタイプのゲームすべてをローグライトと呼ぶようになったとして、そのジャンルになんの意味があるんだろうか、という疑問がある。もちろんそれはローグライクにも言えることではある。しかしよりゆるい定義のあたらしいジャンルよりは、まだマシだと思っている。