命名メモ

キャラクターや地名の名付けについて、前に英語でやる方法は一冊の薄い本にまとまるように書いたんだけど、これと同じメソッドを各言語に適用すれば各言語でも造語ができるよ、という話を書こうと思って一年以上が過ぎちゃったな、というのと、それとは別に、音象徴と語彙の関係性の話をしたいな、というのと、完全に音象徴だけで命名する方法もあるからそれもやりたいな、というのと、やりたいことが多すぎてまとまってないよな、と思ったので、今ここでまとめておく。どうした急に。

各国語での造語

各国語での造語を説明するということは、各国語の音韻的な特徴を説明するということにおおよそ等しい。

たとえばフランス語はこういう音韻的な特徴を持っている。

  • 口蓋垂音の R(Guttural R)
  • 鼻母音(Nasal vowel)
  • リエゾン / エリジオン
  • 有音のアッシュ(Aspirated H)

口蓋垂音の R と鼻母音はカタカナに音写するときには表現しようがないので無視するとして、リエゾン、エリジオン、有音のアッシュについてはつづりと発音に影響するやつなので抑えておく必要がある。 それ以前の話として、フランス語はどういう子音と母音を持っていて、どういうつづりだとどういう発音をするのかということも知っておく必要があるし、語の構成要素としてどういうものが現れやすいのかということも知っておく必要がある。たとえば英語だと smash や clash や rush みたいになんか勢いのある動詞には -sh がつくことが多い、という傾向があるが、フランス語だとどうなっているか、などである。これはもうひたすらにフランス語の語彙をたくさん収集してやっていくしかない。そういうのが大変だということもあって最初の題材に英語を選んだが、これはある程度意味があったと思っている。 語彙の etymology を辿るのは上手いやり方で、これは語彙が別の言語に移るときにどのような音韻的な変化をしたのかの変遷を表している。こういう手順で変形したということを知っていれば、別の語彙を同じ手順で変形させれば、ある時点の言語らしい語彙を生成できるかもしれない。実際英語での造語のときにはそのような方法も説明した。

ドイツ語やスペイン語、イタリア語、ロシア語……となってもやることは変わらない。その言語の音韻的な特徴を把握し、それに合うように語を作ればよい。

音象徴と語彙の関係

たとえば英語だと smash や clash や rush みたいになんか勢いのある動詞には -sh がつくことが多い

前段にこう書いた。-sh という音はそのまま勢いがある音だということに気付くだろうか。こういう音のイメージと語彙の持つ意味合いに実は関係あるんじゃないの、というのが音象徴という概念である。

ソシュール先生はある言葉の持つ意味とその音には特に必然性はないよ、なんとなくそうだからそうなっているだけだよ、ということを言っていて、これを「言語の恣意性」と呼んでいる。 実際、日本語で数字を数えるときの「ひ、ふ、み、よ……」の「ひ」や「ふ」には特に意味はない。別に「い、ろ、は、に……」でもよかろうと思うし、実際「いち、に、さん、し」や「ワン、トゥ、スリー……」でも困らない。たまたま日本語では「ひ、ふ、み……」を数字に割り当てただけで、こういう概念はたしかに恣意的に音が割り当てられることになる。

でも、「ギザギザ」とか「ジグザグ」は実際にその音が「ギザギザ」していたり「ジグザグ」している(更にいえば「ギザギザ」と「ジグザグ」という日本と英語でまったく言語的に遠いところでも、似たような擬態語が発生している!)。擬態語でなくとも、「まるい」という音は実際にまるみを感じさせるし、「ひろい」とか「おおきい」という音は実際にひろさ、おおきさを感じさせる。言葉の意味と音の結びつきがなんとなくだとしても、我々が発声したり耳で聞いたりするときの印象が言葉の意味の方向性に影響をしてるのではないか、というわけである。

これを踏まえると、たとえば女性名には柔らかい音を、男性名には強い音を使う、という工夫ができるようになる。ジャイ子はシャイ子だとちょっとかわいくなるが、ゴジラはコシラだと弱そうになる。

文化的な音象徴もある。フランス語っぽい音を聞くとフランス語っぽく感じるし、ドイツ語っぽい音を聞くとドイツ語っぽく感じる。オクラはアフリカの現地語に由来する英語の語彙だが、なんとなく日本語っぽく聞こえるから日本のものっぽく感じる一方、ミル貝は外来語っぽく聞こえるから日本のものなのに西洋のものっぽく感じる。

なんらか一般名詞を作るときに、その現地で定着したものを表したいときには、たとえばキャベツをキャベッジと書かずにキャベツと書く、トマトをトメイトウと書かずにトマトと書く、とか、このへんで印象が変わるのも覚えておくとよいだろう。

音象徴だけで命名する

R 音は流れるような印象があるから、単に R 音を使うだけでなんとなく流麗な響きの名前を作れる。

たとえば「レイ」とか「リン」は涼やかな印象を受けると思う。一音節から二音節くらいの名前だったら、これでザクザク作れる。

ゴブリン族の名前を作るときに、g、b、r、n だけ使ったりすると、なんとゴブリンっぽく聞こえる。実際にやってみよう。

aotak.dev

生成ボタンを押すとランダムに名前を生成する。架空言語を作るというと実際大変だが、単に名前を作るだけならこのように音象徴だけでやることもできる。共通する音韻的な特徴を持つ名前群はもはや言語と呼ぶことができ、これが架空言語の第一歩になる。


このあたりを深堀りした連載をまた今度はじめたい。今作ってるゲームが一段落したらその知見も使えると思う。

こちらからは以上です。