前にありゃ馬こりゃ馬は紹介したと思うんだけど、あらためて引用で振り返りつつそれ以外に二本くらい紹介する。
競馬狂走伝ありゃ馬こりゃ馬
最近馬の話ばっかりしてて馬好きなんだろうなっていうのは伝わってると思うんですが、ぼくが馬をいちばん見てた時期が98~99年くらいで、当時はサイレンススズカ、ステイゴールド、グラスワンダー、スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、セイウンスカイ……とそうそうたる顔ぶれだった時代なんですけど、だいたいそれくらいの時期に完結したマンガです。 リンクは1巻と5巻のものなんですけど、これ見てわかるように1巻~4巻までと5巻とで作風がぜんぜん違うんですよね。4巻まではギャグ、競馬あるあるマンガという感じで、5巻から打って変わって競馬ドラマになっていきます。田原元騎手の競馬観や騎手観が投影されていて、そのあたりのリアルさやシビアさは真に迫るところがあります。原作の田原氏自らが体験したサンエイサンキュー事件を元にしたエピソードとか。最終巻がこれまで凄まじい。読んで味わってほしい。全17巻と割と手を出しやすい長さだと思います。
原作の田原成貴は92、93年有馬記念のトウカイテイオーやマヤノトップガンの主戦を務めた騎手。桜花賞を4度勝っており、春の牝馬クラシックで存在感があった*1。
元GIジョッキーの原作ということもあり、騎手目線の描写は真に迫るものがあり、競馬の本質的な部分を描いている作品の一つだと思っている。今なお色褪せない魅力があるが、さすがにタイムなどは当時のレコードに基づく描写になっているため、現代のレコードを知っていると思ったより速くないな?となるかもしれない。
スピーディワンダー
これはありゃ馬こりゃ馬よりももうちょっと最近めの話。原作はジャイアントキリングの原案を担当する綱本将也氏。
ディープインパクト産駒が出てきたりするのでそういう時代感。ヒーローが騎手でヒロインが牧場の娘のダブル主人公になっていて、騎乗の話はあまり主ではない。騎手目線での馬の性質とかそれくらいの描写はあるものの、どちらかというと馬産地寄りの話になっている。馬の血統背景を絡めつつ、近現代競馬史の血統ミステリーの謎を解明していく、という結構なよくばりセットで、読み応えがしっかりある。全体的にはどちらかというとファンタジー寄りの話で、そうだったら面白いよね、くらいの気持ちで読むと楽しめるだろう。
セイウンスカイの後継馬が出てきたり、血統描写にはロマンがあり、そういうのが好きな人にはたまらないと思う。わたしはたまらなかった。
JBISにコラムを連載しており、スピーディワンダー登場馬の血統背景の解説や架空馬の記事が読める。楽しいのでスピーディワンダーを読んでよかったという人はこちらも見てみてほしい。
イッキ!
- 作者:久寿川 なるお
- メディア: コミック
これは電子書籍化されていないので紙の本で読むしかないのだが、特にプレミアでもなく普通に市場にあるので苦労せず読めると思う。
連載時期はありゃ馬こりゃ馬とだいたい同じ時期で、競馬ブームだったので競馬漫画もたくさんあった。マキバオーもじゃじゃ馬グルーミンアップも90年代。
競走馬に転生してしまい、よりよい来世のためにジャパンカップ勝利を目指して走ることになった男の話。今日日珍しくない転生ものだが、転生先が競走馬で、だんだん競走馬としてよく走りよく生きることを目指すようになっていくドラマは、今読んでも楽しめる、というか今だからこそ楽しめるかもしれない。
作者がちょっとエッチなマンガを描いていたこともあり、お色気描写が多い。追っても走らず女性ジョッキーが胸を押し付けることでスパートをかけるというのがなんとも男性向けっていう感じなんだけど、そういうコメディから出発して最終的によく走りよく生きるのはベタベタだけど王道で熱い。
全9巻で短めなんだけど読み応えはあり、特に地方競馬のダート競争にもスポットを当てているところがいい。ダートを走った馬がジャパンカップを勝ちに行くのがまたいい……。地方から中央に挑戦するドラマはオグリキャップをはじめ、90年代にはメイセイオペラやアブクマポーロ、地方所属馬としてはじめてクラシック前哨戦となる中央重賞を制したライデンリーダーなど、輝かしい活躍をする馬が多かった。わたしは今作を読むまで地方競馬の存在はよくわかってなかった*2し、ナイター競走がある!ということも知らなかった。そういうものに触れられるいい作品だったなと今でも思う。